| 「Age 〜あのころ〜」 |
| 最近、私の足の友、チャリの調子が悪い。 小さなキコキコという軋み音は出るし、パンクはしてる様子はないのだけれども、 タイヤの空気の抜けるのが早い気がする。 私が重すぎるからだって?よけいなお世話よ! 先日の休み、ちょっと遠出をした時、偶然見つけたアジアン雑貨のお店、 また行ってみようと、無理してこいだのがよくなかったらしい。 お店に着く前に、なぜかペダルが重くなり、やたらと腰に振動が響いてきた。 あ?前輪のタイヤが・・・空気抜けてる!! しかたなく私は自転車を降りた。 アジアン雑貨のお店は、この先の道の奥まったところにあるのだけれど、 商店街の方に向かい、自転車屋さんを探すことにした。 この町の商店街は一度しか通ったことがないが、クリーニング屋さんの看板の向こうに、 サイクルという看板の文字を見つけることができた。 よかった、助かった・・・。ここから自転車を押して帰るのはかなりきついもの。 「すみません・・・」 白いつなぎで作業をしているお店の人の背中に向かって、私は声をかけた。 「はい!」 振り返ったお店の人は、思ったよりも若い、男の人だった。 「あの、これ・・・」 私が言うより早く「ああ・・・前輪ですね?」と、しゃがんで様子を見始めた。 「空気抜けやすいでしょ?これ」 「ええ」 「ちょっと時間かかるので、そちらにすわってお待ちください」 「はい・・・」 よく見ると、店内には他にも若い男の子がいて、自転車の修理をしていた。 自転車屋さんって、おじさんっていうイメージがあるけれど、まぁ、それも勝手なイメージ だけれど、ここは若い人だけでやってる店なんだろうか? 「どんな小さな傷でも、ほっとくとペタンコになるまで気づかなかったりするんだよねぇ。 そう考えると、タイヤも人の心も似たようなもんかなぁ?ケアは大事ですね。 でも、人の心の傷だって、時間がたてばいつかは治りますからねー!」 へ?いきなり何を言い出すんだろう、この人は?! 若いのにオヤジくさいことを言う、変わった人だなと半分笑いそうになりながら、 私はふと、昔を思い出した。 |
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| 私は昔から運動音痴で、自転車の補助輪がやっと取れたのは、小学校5年生の時だった。 人より何倍も練習しなければ乗れるようにもならなかったし、補助輪を取るまで 怖さが先に立って、なかなか上達しなかった。 その日も私は、近所の空き地でひとり練習をしていたけれど、自分よりもっと小さな子が 上手に私の横を自転車ですり抜けてゆくのを見て、思わず恥ずかしくなり、椎の木の下で うつむきながら休むフリをしてすわっていた。 「なんだよ、もう休み?」 突然背後から声がした。 振り返ると、見知らぬ男の子が私を見下ろして立っている。 いや、見知らぬ顔じゃない、確かこの子は・・・隣りのクラスの・・・そう、商店街の 自転車屋さんの子だ! 「ころがるのを怖がってたら、いつまでたってもうまくならないよ?」 その子は笑った。 「だって・・・あんたは自転車屋で、小さい頃から乗ってるから、そんなこと簡単に 言えるんでしょ?!」 「おれは3才から乗ってるけど、おれだってめっちゃくちゃころがったよー!」 「・・・・・」 「それに・・・ころがって傷ができても、時間がたてばなおるんだから!」 なんだか当たり前のような、的を得たようなことを言って、「ほら?」と その子は私の手を取って立ち上がらせた。 「押さえててやるから、乗ってみ?」 「は、離さないでよ?ぜったいっ!」 「だいじょうぶだってー!」 私はゆっくりこぎ出した。その子も私の後について確かに走っていた。 「そうそう、そのまままっすぐー!」 「離さないでよー?」 「だいじょぶだいじょぶ!」 「・・ああーーっ!!」 私は案の定倒れた。倒れた拍子に足をすりむいた。 「っ痛ー・・・離さないでって言ったのに、離してたじゃん!」 「・・ごめん。でもちゃんと乗れてたじゃない?」 「でも・・そんなのちょびっとだよ・・・」 「だいじょうぶ、それがだんだん遠くまで走れるようになるから。 あ、痛いからってバンソーコはるなよ?はらない方が早くなおるからね」 「・・・・・」 「傷ができても、時間がたてばなおるんだから!」 その子は私の手を引っ張って、起き上がらせてくれた。 「あ、やべー、弟が待ってる!じゃあな、おれ、店の手伝いもあるから帰るね」 「・・・ありがとう・・・」 「よかったらまた教えてやるよ!」 「うん・・・ありがとう」 「じゃーなー!」 「バイバイ・・・」 そして、その子はそれっきり空き地には来なかった。 あとで聞いた話だけれど、お父さんとお母さんが離婚して、その子は弟とお父さんの3人で、 私たちの住む町を出て行ったそうだ。 |
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| どうして今ごろ思い出したんだろう?こんなこと。 乗れるようになったのがその子のおかげだった・・だろうし、何よりその子が自転車屋さんだった せいかもしれない。 「おい、エイジ、ちょっとここ見てくれよ?」 奥で修理をしていた若い男の子が、その人のことを呼んだ。 「ったく!兄貴に向かって、呼び捨てはやめろってんだろ?!」 その人は笑った。 エイジ・・・・・エイジ? 「あの・・・」 私はたずねていた。 「こちら・・・お二人でお店をなさってるんですか?」 「そうなんすよ。オヤジが亡くなってから、弟とオレとでなんとかやってます。 あ、また来てくださいよ、どうぞこれからもごひいきにしてやってください!」 その人は笑った・・・あのころと同じ笑顔で・・・。 「はい、どうぞ」 その人、エイジは私に自転車を手渡した。 「今日は大サービス!次回の割引券を差し上げますので!!」 「・・・しょーもねーなー、ちょっとタイプだと思うと調子に乗んだからよ!」 弟さんが横でため息をついた。 「バカ!!」 エイジは弟をこづいている。 「・・・おかげで自転車、乗れるようになりました・・・エイジくん」 「・・・・・は?・・・・・・は?!」 「ころがってできた傷も、たくさんの時間が経って治りました」 「あ?・・・ああっ?!」 今度は、エイジが弟さんにこづかれた。 「また来ますね」 「はい!毎度ありがとうございましたー!」 「兄貴のこともよろしくお願いしますねぇ?」 「ったくおめーはよけいなこと言うんじゃねーよっ!!」 仲良くケンカする兄弟に手を振って、私はペダルに足をかける。 あのころ・・・私はエイジから大切なものを教わった。 もしかしたらこれからも? 秋晴れの陽射しの中、私はアジアン雑貨のお店目指して、ペダルをこいだ。 |
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