「あたし温暖化」



湿り気を帯びた熱い空気の中、都会の空にとどろく花火。

浴衣姿の女の子たちがまぶしく見える。

あたしは疲れ果てた仕事の帰り。


「お疲れ様〜!」

背後から声をかけられた。振り返ると隣の課の山下くんだった。

「今日もキビシかったっすよねぇ、休日出勤アーンド残業」

「そうだよねぇ。周りは花火見物の人ばっかりだしね」

「どうですか?ちょっと一杯行っちゃいます?」

「いいねー、行っちゃいますかぁ?」


花火の音が止んで、浴衣姿の女の子もカレシと一緒に帰途につく。

「なんか迷子になりそうだよなぁ」

そう言って、山下くんがあたしの手を取った。

「はぐれちゃうと困りますからね。こんな中でヒトリビールはたまんないすから」

山下くんはサラッと笑って言った。

「そうだよね・・・」

あたしも平静を装ってみたけど、体温が上がってゆくのを感じた。


むせかえるような人ごみの中、あたしは山下くんに手を引かれて歩いた。


「こんなとこ、カノジョに見られたらたいへんなんじゃないの?」

あたしもサラッと言ってみた。

「いや、全然OKっす!見られて困るカノジョなんていませんから」

「またぁー!大嘘つきィ」

「マジっすよ!」

そんな・・・マジっすよ!って返されても・・・。

また体温が1℃上昇した。

このまま行くと、地球よりも先に、あたし温暖化で、氷山が溶けて海面が上昇して、
今歩いてるここも沈んで、あたしたち溺れちゃうー!

「何ブツブツ言ってんすか?」

山下くんが、わんこのような無垢な目で、あたしを見た。

「あ、温暖化について考えてた」

「いきなり?おもしろいっすねぇ」

そう、そうなの、あたしおもしろい人止まりなの、いつも。

「おもしろい人って好きだなぁ」

「はい・・・???」

「おもしろい人って好きっすよ」

海底火山、休火山も噴火してしまうー!!

「どうせならおもしろく楽しく生きたいじゃないすか。そういう人と一緒にいると、
 幸せだな、って」

まもなく噴火ーーーーー!!

「山下くん、あたし火噴きそうなんだけど・・・?」

「え?吐きそう?具合悪い?ヤッベー、この人ごみがいけないのかな」

違うってば・・・。(T_T)



すっかり人がまばらになった橋の上で、ぼんやり川を眺めてたあたし。

川面に灯りが映ってきれい。

「ハイ、どーぞ」

「ありがとう」

山下くんと二人で、缶ビールを開けた。

「じゃ、一応、乾杯ということで!」

「乾杯」

「おつとめご苦労さんです、姐さん」

「ご苦労、舎弟」

アハハハハッと笑いあって、今日一日が終わってゆく。


あたしの温暖化はどこまで続くんだろう?

山下くんとのこの微妙な距離は、どこまで縮まるんだろう?

今日生まれたこの微妙な気持ちは、いつか花火のように大きく咲くのかな。

今はなんにもわからないけど、このまま一緒に穏やかなときが過ごせたらいいな。

星さえ見えない空だから、流れる星なんてないけど、心の中でちょっと祈ってみた。




BGM : aiko 「花火」

BGBoy : 山ピー(^_^;)。なぜ彼をモデルにしたのか作者にも不明(^_^;)