「夏休み」



久しぶりに実家に帰った。東京の真ん中で幾度も過ごしてきた夏。

何年ぶりだろう。

この辺りも家が建て込んで、都心のオレの部屋から見える景色と、

さして違いはなくなってしまった。

なのに、窓の外の緑も蝉の鳴き声の多さも、オレが走り回ってた頃と

変わってない。

コンクリートの中じゃ気づけない匂いがする。もうすぐ雨だ。


「めずらしいね、アンタが帰ってくるなんて」

姉ちゃんが麦茶をテーブルに置いた。オレが帰ってきたから雨、か?

「肝心な時に帰ってこないんだから」

オレは苦笑いした。

「まりこちゃん、秋に結婚するんだって。」

「そっか」

オレは扇風機の風にあたりながら、麦茶を一飲みした。

そして、喉をたたきながら「ワレワレハウチュウジンダ」と言ってみた。

「まったくアンタはいまだにガキみたいなことしてぇ!!」

姉ちゃんは半分呆れ顔で、オレを見ながら言った。

「オバカな弟でこんなこと思っちゃまりこちゃんに申し訳ないけど、
 アンタとまりこちゃん、絶対結婚すると思ってたのにな」

「姉ちゃんも変わんねーなぁ、そういうおせっかいなトコ。
 人より自分の心配しろっての!今年いくつだよ?」

「アンタこそ余計なお世話!!あたしは仕事に生きてんの!!」


軒下の風鈴がちりりん♪といい音をたてた。


「おかっぱのまりこが結婚かぁ・・・オレもトシ取るわけだ。
 でもって姉ちゃんは、はんぱねーくらいトシ食ったってことだな」

「うるさい!」

姉ちゃんに新聞で叩かれた。

「あんだよ?!」

「蚊がいたの、あ、また!」

「ッテー!!」

ドサクサまぎれにぶったたくなよ?オレが使ってたベ○プがあんだろ?


でも、ここの空気も姉ちゃんも変わらない。あったかい。


「あ、まりこちゃんがね、アンタにも披露宴ぜひ出てほしいって。
 そのうち招待状出すから、って」

「そう」

「出るよね?」

「うん」

姉ちゃんはうれしそうに笑って台所に行った。

「うん」オレは自分で何度も問いかけては答えた。


窓の外を走る子供が一瞬、おかっぱのまりこと坊主頭のオレに見えた。

ここにはあの頃と何にも変わらない風が吹いてる。

なーんて、今のちょっと詩人じゃねぇ?オレ。←幸せな奴(天の声)




BGM : aiko 「カブトムシ」