「Single」


              突然、恋愛小説が読めなくなった。街にも出られなくなった。
              すべての恋人たちに嫉妬してしまう私がいる。
              欲しいものが全部手に入るはずがない。
              けれど、私の欲しいのはただ一つだけ、彼の心なのだ。
              それ以外何もいらない。


              やっぱりそうか・・・。
              どうしても拭い去ることのできない想いに駆られて、私は頭を抱え込んだ。
              声を押し殺して泣いた。

              彼に女ができた。
              直接聞いたわけではないし、聞けるはずもない。ましてや答えるはずもないだろう。
              でもそんなのよくあること、いつものパターンだと思っていた。

              今回は何かが違っていた。
              それまでインテリアにどちらかと言えば無頓着だった彼。
              すわり心地のよいソファに買い換え、カバーリングにも気を配るようになった。
              気づけば、洒落た小物たちが、いつの間にか増えていた。

              部屋をお気に入りで埋めたい=部屋での居心地のよさを意味する。
              少なくとも私にとっては。
              その女を部屋に呼びたいことに他ならないのではないか?

              私だって雑貨屋めぐりが大好きだった。彼に出逢うまでは。
              彼に出逢って、自分の頭の思考回路のほとんどを彼にかっさらわれていくまでは。
              私だって以前は、居心地のよい部屋作りに燃えていたのだ。
              それでも自分の全てが彼に向かってしまうことを恐れ、心に余白を残しておいたつもりだった。
              いつしかその余白にさえ、びっしりと彼の言葉が書き込まれてしまっている。

              決して自分のスタイルを変える人じゃなかった彼が、
              私の知らない誰かによって、変わってゆく・・・。

              ある日、彼はひとこと「ごめん、結婚するんだ」とつぶやいた。
              私は愛する彼に別れを告げた。3ヶ月前のことである。


              夢中になったのは私の方で、彼の方はといえば、私を嫌いじゃないという程度にすぎなかった。
              彼はきれいな女とすぐ恋に落ちる。幸せそうに過ごしているけれど、いつも最後はなぜか
              私に泣きついてくる。

              どうしようもない男。彼にとって都合がいいだけの女。
              なのに私は、戻ってくるそんなどうしようもない男を愛してしまっていた。
              つくづくバカな女だと、誰もが言う。尽くして挙句の果てにほっぽり出されるなんて。


              身体がだるい。吐き気がする。寒い・・・。
              理由は・・・わかっている。

              私はトイレに駆け込み、吐いた。

              私の欲しいのはただ一つだけ、彼の心だった。
              でも彼はもう、戻ってはこない。

              確かにあの時、私は彼と別れた。
              たくさん泣いたし、あきらめもした。

              だけどこの命、彼からもらったこの命がある限り、忘れはしない。

              なぜこんなにも想ってしまうのだろう?
              女の細腕一つで、これから当然やって来るであろう苦労を、どうしてわざわざ乗り越えようと
              言うのだろう?

              わからない。

              ただわかることは、彼以外愛せないということだけだ。
              彼が私を愛してくれた証を、人知れず育んでいこう。一生彼を想いながら。

              誰も私を責めることなんてできない。
              このPureな気持ちだけは誰にも負けない。

              私は彼を愛している。