「宇宙(そら)からのプレゼント 2」 〜すばる〜


            時は師走、社内全体の忘年会で酔いが回った私は、ほてりを冷まそうと居酒屋の外へ出た。
            冷ますどころか、一気に体の芯まで急速冷凍されてしまいそうな夜だ。

            見上げれば上弦の月。
            今夜は一段と冷え込むせいか、星も数多く煌いている。
            ほら、オリオンの斜め上方、プレアデス星団も心なしかいつもよりはっきり見えるよう。

            ぼーっとして星を見つめる女に疑問を抱いたのだろうか。
            店から出てきた男の人が、空と私の顔を見比べている。
            別に悪いことをしているわけではないのに、私は気まずくなってそそくさと店の中へ
            戻ろうとした。

            「あ、今戻ると、つまんねーことで有名な部長と部長補佐の漫才ですよ?」
            「・・・社内の方だったんですか?」

            これが彼と私の出逢いだった。

            店の自販機でちょうど売り切れていたというタバコを買いに走り、戻ってきた彼が、
            少し息をはずませながらたずねてきた。
            「星、好きなんですか?」
            「ええ・・・暗いよねーってよく言われます」
            「そうですか?いい趣味だと思うけどな」

            自慢じゃないが、一度も誉められたことのない私の趣味。

            「今夜はホント寒っ!でもだからかな、すばるもかなりよく見える」
            「私はプレアデス星団がきれいに見えるのがうれしくて、つい眺めていたんです」
            すると彼は半分困ったような顔をして、遠慮がちに言った。
            「あの・・・すばるってプレアデス星団のことなんですけど?」
            「え?」

            星が好きとか言っておいて、そんなことも知らなかったなんて恥ずかしい。

            彼は、すばるについて少しだけ話してくれた。
            すばるはプレアデス星団の和名。清少納言の「枕草子」にも「星はすばる・・・」と
            綴られており、昔から人々に愛されてきた。
            その120個ほどの青白い光たちは、牡牛座の肩の部分にあり、星の年齢で言えば
            まだ生まれたての赤ちゃんなのだそうだ。
            「そうは言っても、我々から見たらとてつもない年齢なんだろうけどね」と彼は笑った。

            頬に熱さを覚えて、寒さが心なしか和らいでいく気がした。


            星の時計では一瞬にすぎないかもしれないけれど、あれからたくさんの時が流れた。

            二人をめぐり逢わせたのが、すばる。
            そして彼との別離の切ない夜には、満月が私を思いきり泣かせてくれた。
            けれど再びめぐり逢わせてくれた、獅子座流星群。
            私たちの間には、いつも宇宙からのプレゼントがあるような気がする。


            私は残業を終えて、一足先に彼の部屋に向かった。
            駅前の喧騒を過ぎ、灯りが少しだけおとなしくなった道で、今夜も空を見上げる。
            あなたの部屋の窓からも、このオリオン見えるはずよね?

            バレンタインのチョコとワインをテーブルの上に置き、窓を開ける。

            ケータイが鳴った。
            「もしもし?オレだけど。今駅に着いたから」
            「わかった。用意しておくね」
            キッチンの食器棚から、この前買ったばかりのワイングラスを出す。

            私たちの行く手には、どんな星たちが煌いているのだろう?
            あのオリオンの3つ星のように、3人で輝いていられたらいいな。彼と私と・・
            そしてもうひとり・・・。
            もしかしたら・・・すばるのようにたくさんの子供たちに囲まれているかもしれない。
            などと考えては、また頬を熱くする私。

            ベランダに出て星空を眺めていると、通りを向こうから、よく知る人がやってくる。
            彼は自分の窓を見上げ、私に気づき手を振った。
            「おかえりー!」
            私も微笑んで大きく振り返す。

            紺青の夜空に、すばるの子供たちがより一層輝いたように見えた。