「宇宙(そら)からのプレゼント」
「君、困るんだよね。先方はたいそうなお怒りだよ!」
仕事がつまっていて、日曜返上で会社に出た私は、上司の怒りを受けていた。
「申し訳ありません・・・」
「ったくこれだから女は・・・」
上司の常套句だ。何でもその言葉で片付けようとする。
確かにミスをしたのは私で、逃れようもない事実。
ただ頭を下げて、謝罪の気持ちとこれからの頑張りを約束するしかない私だった。
社会に出てから早や10年。気がつけば同期はみな寿退社して、部の女の子たちからは
お局などと言われる年齢になっていた。
ただ仕事にがむしゃらに突っ走ってきたわけではない。
人並みに恋もした。胸をつまらせ、眠れぬ夜を過ごし、女としての幸せな時も味わった。
けれど私は・・・何もかも捨てて彼の元へ走ることができなかった。
ようやく仕事ぶりを認められ、部内でも初めての女係長になることが決まっていた去年の夏。
ひとりで遠い地へ赴任していく彼へ向けて、最後に私は、成田で強がりの笑顔を見せた。
いまだ独身を貫いている数少ない女友達と、今夜も食べて飲んで歌って・・・。
「どこかに何かを忘れてきちゃったかな・・・」
誰かの歌詞にあったような言葉をつぶやいては、帰る道すがら寄ったコンビニを出ると、
冷たい風が身に染みた。肩をすぼめて歩き出す。
真夜中のコンクリート・ジャングル。ところどころ灯っている窓の明かりが、
かえって淋しさを助長する。
私は今、ひとりなんだなぁ・・・。
ふと空を見上げた。にごった都会の空、雲と雲の合い間をぬって、強い光がするっと落ちた。
あ・・・。
そういえば、今日は獅子座流星群の夜だった・・・。ともすれば数百年に一度かもしれない、と
新聞に書いてあった。彗星が残したおびただしい塵が宇宙にばらまかれている。
星を見上げるなんてこと、この数年やったことがなかったのを思い出す。
この日本、いや世界のあちこちで、今同じ空を眺めてる人がいる・・・
そう思ったら不思議な気持ちになって、なぜか涙がこぼれた。
真っ暗な部屋に戻ると、電話の留守録ボタンが点滅していた。
誰だろう?ボタンを軽く押して、腕時計をはずす。
「用件は1件です。再生します」
無機質な声が静かな部屋に響き渡る。
「もしもし・・・オレです。わかりますか?お久しぶりです。
先日日本に帰ってきました。またこっちでプロジェクトに参加します。
昔住んでたとこ、友達が住んでてくれたので、電話もそのまんまです。
よかったら電話ください・・・。
あ、今星流れたよ!!」
ケータイじゃないとこが彼らしい。私は笑った。
笑うと同時に、とめどなく涙があふれて止まらなかった。
ケータイや家の電話のメモリー消しても、アドレス帳の住所消しても、
頭の中のメモリーは消せない。何もかもこの指が覚えてる。
宇宙の流れゆく星たちが、私に何かを運んできてくれた。
かわいい女の子みたいに願い事してないのにね・・・。
私は受話器をにぎりしめた。
「もしもし・・・私・・・」