| 「太陽と月の物語」 昔々、この世界にまだ太陽と月がなかった頃のことです、 人々は、暗がりの空に浮かぶ星の光で暮らしておりました。 あるところに、ヒナタという女の天使がおりました。 彼女は、世界を照らし出すような天性の明るさを持っていました。 彼女が全知全能の神から与えられたのは、辛いことがあった人々の悩みを聞き、 心をあたためるという任務でした。 ある日、ヒナタが悲しみの人々の存在を知り、西に向かって空を飛んでいると、 向こうの空から男の天使がやって来ました。 彼の名はツキカゲといい、心に誰にも見せたことのない影を持っていました。 彼が与えられた任務は、心を痛めた人々の肩をそっと撫でて、涙を流すよう教えることでした。 二人は出会ってすぐ、不思議な感覚にとらわれました。 ツキカゲはヒナタのそのまぶしさに惹かれ、ヒナタはツキカゲの心の影を知りたくなったのです。 降り立った風吹く野原で、見つめ合う二人の頬は赤く染まっていました。 けれど、ヒナタは西へ向かわねばならず、ツキカゲはその地にとどまって 人々の痛みを分かち合わねばなりません。 二人は、胸の痛みと離れることの淋しさを覚えたのです。 切り裂かれるような想いで別れた二人。 この想いがどこから来るのかわからず、二人はそれぞれ、全知全能の神に問いかけました。 「この気持ちはいったい何なのですか?」 すると神は答えました。 「それは恋というものじゃ。自分でコントロールできぬほど、心が揺り動かされること。 ヒナタ、おまえが心をあたたかくすることも、ツキカゲ、おまえが涙を流させていることも、 恋する者のために必要な任務なのじゃよ。おまえたちは己自身、恋を知ったのじゃ」 神の声が二人の心に響き渡りました。 ・・・恋・・・・・ 相手を想いながら、再び逢えることを望む二人。 しかし、彼らの任務はなかなかに、二人を出逢わせてはくれませんでした。 互いに相手を追い求める日々が続き、ついぞ出逢えた時・・・ 二人は抱きしめ合い、二度と離れまいと誓ったのです。 けれど、幸せをかみしめたのもつかの間・・・ 任務を怠った二人は、神の逆鱗に触れ、燃えさかる炎によって身を焼かれてしまいました。 「愚かな者たちよ・・・」 神はあわれみの涙を流しました。 そして、ヒナタとツキカゲを思い、この世界に太陽と月を創り出したのです。 これでおわかりでしょう? 太陽に明るく照らされていると、元気になれるような気がするのは、 月を見て涙を流したくなることがあるのは、 ヒナタとツキカゲのせいなのです。 太陽は西に向かい、月はそれを追いかけます。 昼間、太陽に照らされながら月が出ているのは、二人が逢える唯一の時を 神が与えてくれたから。 逢えて心が満ちた時、月は満月となり、逢えぬ辛い日々が続くと、欠けてゆく・・・。 沈む太陽が赤いのは、昇りたての月が赤いのは、二人が頬を染めているせいだったのですね。 そんなヒナタとツキカゲの切ない恋のお話。 どうか心の片隅にとめておいてやってください。 恋に身を焦がすという言葉、実は、身を焼かれた二人を指しているのだということ、 |