「ぬくもり」 by 栞


     玄関先でパンプスを蹴散らすように脱ぎ捨て、あわててバッグの中を探る。
     携帯の着信のカラーを見るまでもなく、それが瞬介からの電話であることを
     確信していた。

     ”もしもし?”

     その一言を聴くだけで、あなたの声をほんの一瞬聴くだけで、
     今日の課長のお説教とか、お局様のイヤミとか、給湯室での後輩のサボリとか、
     すべて帳消しになる。

     ”もしもし?”

     その一言を返すだけで、私の声をほんの一瞬聴くだけで、
     あなたには、私の心の状態がわかってしまう。

     心と心が触れ合う時間が、私にとって何よりの幸せ。
     明日もがんばろ!そう言い合って、あなたの耳元に軽くキスをした。